『ウィンズテイル・テイルズ』 特設ページ

近未来。

なんの前触れもなく、突如世界各地に出現した巨大な黒い三角錐。事態を把握できずにいる人類の目の前で、後に
黒錐門(こくすいもん)と呼ばれることになったその内から姿を現したのは漆黒の黒いゴーレムだった。
人類による阻止行動の全てを寄せ付けず思うがまま地上を徘徊するゴーレムは、人類が二千年以上かけて作り上げた文化文明の産物を、惑星が四十億年以上の時を経て生み出した自然物を吸収し、半透明の無機物へと変えていった。

その行動から恐れと憎悪を込めて
徘徊者と名付けられた黒いゴーレムによって、地上の大半が半透明の無機物で覆い尽くされるまでに要したのは五年にも満たない僅かな時間。
辛うじて生き残った人々にできたのは、未だ徘徊者の襲来を受けていない町に集まり、多くの手痛い経験と僅かに残された文化文明を寄せ集め、徘徊者の出現に脅えつつ暮らすことだけだった。

そんな町のひとつ、
ウィンズテイル
大陸の北に位置し、北方にある黒錐門から出現する徘徊者を食い止めるために存在する、防衛拠点都市。
物語は最初の黒錐門の出現から百十余年後、ウィンズテイルで唯一の少年、
リンディがウィンズテイルの自警団・町守(まちもり)の見習いとなった朝から始まる——
物語の舞台など 
ウィンズテイル
大陸の北方に位置する、東西約1.5km、南北3kmほどの歪んだ卵形をした町。北には徘徊者によって奪われ尽くした文化文明や自然物の残り滓、その見た目から〈石英〉と呼ばれる半透明の無機物の柱が立ち並ぶ、〈石英の森〉が広がっている。

町のほとんどは住宅地で、僅かな商業施設は町の中心部である中央広場付近に集中している。中央広場の中心には、町のシンボルにもなっている時計塔がある。
一方町の最北端には全高25mの見張り櫓があり、昼夜問わず徘徊者の襲来を監視し続けている。

住人数は五千人弱、平均年齢は七十代後半。
かつて人口五万人を超えていた町の建物のほとんど、特に中央広場から北——つまり黒錐門により近い側の住居は、空き家ばかりとなっている。
ダルゴナ
ウィンズテイルの南方にある工業都市。ウィンズテイルとの間で定期船による交易が細々と続けられている。
ウィンズテイルは徘徊者がさらに南方に襲来することを防ぐことと引き換えに、ダルゴナからの支援を得ている。
コラルー川
ウィンズテイルの東を流れる、幅100mほどの川。遥か南で海に流れ込むころには川幅は500mに達すると言われている。
ウィンズテイルにとっては貴重な水源であると同時に、魚介類を収穫できる漁場やダルゴナとの交通手段でもあり、また限られてはいるが安定した電力を得られる水力発電施設の設置場所ともなっている。
防衛壁
見張り櫓から千メートル北、東西三キロに亘って設置されている、徘徊者の襲来を足止めするための設備。
実体は、等間隔で立てられた高さ三メートルの竿とその間に張られたネットで、ネットの表面には品種改良された蔓性植物が繁茂している。
町守(まちもり)
ウィンズテイルに存在する自警団。比較的(ウィンズテイルとしては)若い住人によって構成されている。主な役割は黒錐門から出現する徘徊者の警戒と侵略阻止だが、警察的な役割も兼ねている。
かつては町議会が別に存在したが、住人の高齢化と人口減少によって、現在は町守が町の運営も担うようになっている。
連弩(れんど)
町守が使用する連装装置のあるロングボウ。最大で六本の矢をセットすることができ、射程は200〜300メートル。
機體(きたい)
黒錐門の出現直前に実用レベルに達したとされている、超高度な医療機器。骨や筋組織だけでなく、内臓や脳を含む神経系に至るまで、ほぼ全ての臓器の代替をこなすことができる。適用後は人体が発生する熱のみで動作するが、必要熱量は代替する部位によって異なり、高齢化などの理由で充分な熱量が提供できない場合は適用外になってしまう。
製造方法はもちろん開発の経緯なども徘徊者によって奪われたため不明で、現在は残された現物を限られた知識に基づいて利用している状態。
異界に関連するもの 
異界
百十余年を経過してなお正体どころかその手掛かりさえ掴めていない、黒錐門や徘徊者。
意思疎通はおろか何でできているかすらわからないあまりに異質な存在を、生き残った人間は
異界から現れたものとして恐れた。
黒錐門(こくすいもん)
最小でも全高二十メートル、最大では五十メートルにも達する漆黒の黒い三角錐。表面は滑らかだが、幾つかクレーターのような孔が開いている。
地面から突き出た巨大な矢じりのような形状をしており一般的な門の形からはほど遠いが、その内側から徘徊者が出現するため、黒錐門の名が付けられた。

どんなものでできているのか全く不明。かつて人類が持っていたありとあらゆる手段によって攻撃されたが、傷ひとつつけることさえできなかった。
徘徊者(はいかいしゃ)
異界から黒錐門を介して送り込まれてくると考えられている黒一色のゴーレム。小さなものは全高一メートルほどから、大きなものは記録上二十メートルを超えるものが確認されている。
形状に統一性はないが、通常は複数の脚(体躯が大きくなるほど本数が増える傾向がある)と上半身に頭のような部位を持つ。頭部には感覚器だろうと考えられている無数の孔がある。上半身からは複数の腕や触手が生え伸びていることがほとんどで、それらで人間をはじめとする対象に接触し、相手を〈石英〉化する。〈石英〉化に要する時間は対象のサイズによるが、人間ならほんの数秒であるため、接触された場合はまず助からない。

人間ならば胸にあたる部分に
〈核〉と呼ばれる部位が存在し、そこに強い衝撃が与えられると体躯を維持できなくなり、砕片(さいへん)と呼ばれる断片に分解して崩壊、行動を停止する。ただしそのまま放置していると、〈核〉は周囲の砕片を取り込んで元通りの身体を再構成してしまう。砕片も〈核〉も人間の技術ではどうやっても破壊できないため、徘徊者を根本的に倒すことは不可能とされている。
〈石英〉
自然物であれ人工物であれ、徘徊者は腕/触手での接触により対象の色・形・機能などを吸収して奪い去ってしまう。その結果残るのが半透明の無機物で、外見が似ていることから〈石英〉と呼ばれているが、無論本物の石英とは異なる物質である。〈石英〉の多くは柱のような直方体状で、一〜数メートル程度のものが多い。衝撃に弱く、人間の力で割ったり砕くことはもちろん、自然環境で放置されているだけでも経過時間と共に徐々に細かく砕けていく。
円屋根(まるやね)
ウィンズテイル北方の黒錐門を覆い隠すように存在する、屋根状の巨大な〈石英〉。かつて黒錐門を破壊しようとして利用された地中貫通弾の攻撃自体が徘徊者によって〈石英〉化された結果作り出されたものと考えられている。円屋根の下は〈石英〉化した地面がすり鉢状に変形しており、もっとも底の部分に高さ四十メートルの黒錐門が屹立している。
異界紋(いかいもん)
いつの間にか人々の身体に刻まれる、黒々とした紋様。異界紋を刻まれた人間は、肉体か精神のいずれかに人間の技術では対応できない影響が顕れる。
黒錐門の出現から二年が経過したころに現れた初めて異界紋を刻まれた人間は、それまで対抗する術がないとされていた徘徊者の唯一の弱点、〈核〉の存在を〝知り〟、人々に伝えたと言われている。
登場人物 
リンディ・オトハシ・セブンディートールド
十五歳の少年。黒い短髪に黒い瞳を持つウィンズテイルでは珍しい東洋系かつ、唯一の十代。なおリンディは愛称で本名は〝リンドウ〟だが、ウィンズテイルの住人のほとんどがうまく発音できないため、その名で呼ばれることはまずない。視力が良く、運動能力は平均より上といったところだが、若いだけに他の住人にはない体力と粘り強さがある。
十年前、〈石英の森〉で、名前と年齢が刻まれた繭に包まれた状態で発見された。その際、左のうなじに異界紋が刻まれているのが見つかったため、同じ異界紋を持つニーモティカが引き取り、養子とした。だがこれまでのところ、異界紋がリンディにどんな影響を及ぼしているのかは明らかになっていない。
ニーモティカに基礎を仕込まれたのち独自に工夫を重ね経験を積んだ結果、数年前から家事全般はリンディが取り回すようになっている。
ニーモティカに言わせると、「ちょっとマザコンの気があるけど、自慢の息子」。
メイリーン・パストジーン
推定十四歳の少女。肩甲骨まであるライトブラウンの直毛、瞳は黒に近い濃い藍色。こぢんまりと整った、一見大人しそうに見える顔立ち。
幼いころ工業都市・ダルゴナの町外れで倒れていたところを発見され、孤児院に引き取られた。発見時両足は萎えきっており、歩くことができない状態だった。発見されるまでのことは断片的な記憶しかなかったため倒れていた理由は不明だが、保護者が歩けない子どもが足手まといとなって捨てたのだろうと考えられた。名前も年齢もわからなかったため、仮の誕生日と名前を孤児院で与えられている。
一年前、両手のひらに異界紋を刻まれたことで人生が一変する。ダルゴナ運営議会によって行われた調査の結果、メイリーンは異界紋の力で徘徊者の砕片から失われた文化文明の遺物を再生できることが判明。孤児院から引き取られ、イブスランの監督下に置かれることになった。
ニーモティカ・セブンディートールド
実年齢は百二十五歳だが、肉体は十二歳のままの女性。瞳はライトブラウンで、色素の薄い膚にはさっと振ったようなそばかすが浮いている。白に近いプラチナブロンドのショートヘアはどれだけ手入れをしても全体がうねってしまうひどい癖っ毛。右のうなじに異界紋が刻まれており、不老なのはその影響と考えられている。不死かどうかはさすがに試していないので不明。
超高度医療機器である機體の使用方法を知る数少ない存在のひとりで、現存する機體を使ってウィンズテイルの住人たちを助け続けてきた。そうした背景もあってウィンズテイルでは「時不知(ときしらず)さま」と呼ばれ、崇拝の対象かつ精神的支柱となっている一方、他の町からは「ウィンズテイルの魔女」「時不知の魔女」と呼ばれ、恐れられてもいる。ただひとりリンディだけが彼女の素顔を知り、また親愛の情を込めて〝ニー〟という愛称で呼ぶ。
ロバート・ヴォウモンド
六十七歳の男性。ウィンズテイルの自警団である町守の現リーダー。人の良さそうな禿鷲、などと言われる通りの禿頭。(ウィンズテイルでは)若い方で、快活で裏表のない性格と、有言実行の実績及び各能力の高さによって住人から信頼されている。リンディのことは町で唯一の子どもとして、ニーモティカに引き取られた頃から何くれとなく気にしてくれており、親戚のおじさんのようなポジション。愛称はロブ。本人が嫌がるため、誰ひとりロバートとは呼ばない。
ユーゴ・ツヅリザカ
ウィンズテイルではリンディに次いで若い、五十代男性。黒い瞳、短く刈った黒髪にはやや白いものが混じっているが、身体は鍛え上げられていて極めて頑健。連弩の達人で、歴代の町守の中で最も多数の徘徊者を砕いてきた。リンディと同じ東洋系であり、またリンディの繭を発見したのがユーゴだったこともあって、幼少時からよくリンディの面倒を見てきた。
極端に口数が少なく表情がないため何を考えているのかわからないといわれがちだが、長い時間を共に過ごしてきたリンディだけはユーゴの胸の内が察知できるし、ユーゴもまた(口に出すことは滅多にないが)リンディの良い理解者。
コウガ
四歳のアメリカン・カナディアン・ホワイト・シェパードの牡。ウィンズテイルにおいて最大の機動力を有する町守の一員。仔犬のころから訓練を重ね、恐れることなく徘徊者に立ち向かう。リンディのことはどちらかというと保護対象として見ている節がある。
名付け親はユーゴ。〝昔おれの祖先の国にいた、ニンジャというスーパーエージェントの流派の名前からとったんだ〟、ということである。
ジョーイ・マジンディンガ
七十三歳、男性。頭頂部の毛はほとんど失われているが、顔の下半分は豊かな真っ白な髭で覆われている。年齢からすると信じられないほど筋肉質の肉体と、それに見合った膂力を維持している。町守の頼りになる筋力担当だが、リンディに向けられる淡いグリーンの目はいつも優しい。町守の先代リーダー。普段は小さなレストランを経営している。
ドクター・エレアノア・ノブルーシュカ
ウィンズテイル唯一の女性医師、七十二歳。身長179cm、痩せ形であり姿勢が異常にいいこともあって、実際以上に背が高い印象を受ける。住人全員の健康管理を一手に引き受けているが、細かいことに厳密で治療も指導も厳しいのに加え、「ドクター・ノブルーシュカ」と呼ばないと絶対に返事をしないことなどもあり、苦手にしている者も少なくない。ウィンズテイルの住人で、ニーモティカに対して敬語を使わない数少ないひとり。ニーモティカもエレアノアのことはプロフェッショナルとして信頼しており、親しみを込めてエリーと呼んでいる(エレアノアがそう呼ばせているのはニーモティカのみ)。
ガンディット・ナラティット
百歳を超えているのは確実だが正確な年齢は自分でも覚えていない、ウィンズテイルでニーモティカに次ぐ高齢の男性。足が悪く、高齢ゆえに複数の機體を適用できないため車いすを利用しているが、古いものであるためあちこちに不具合があり、移動にはいつも難渋している。仕事はずいぶん前に引退しているが、砕片を収納した倉庫の門番だけは継続している。
イブスラン・ゼントルティ
男性、四十六歳。全体が縮れた焦茶の短髪に同じダークブラウンのやや小さめの目に、下がり眉。ダルゴナ運営議会が管轄する技術保全局の一員で、メイリーンの異界紋の能力が判明して以来、監督官として能力の調査などを行ってきた。
メイリーンを歩けるようにしようと機體を適用したが知識・経験共に不足していたためうまく機能させられず、ニーモティカの助けを求めてウィンズテイルを訪れた。
シュードルト・クオンゼィ
ダルゴナ運営議会の一員で、警備隊総司令兼技術保全局長。イブスランとメイリーンがウィンズテイルに行くことを許した。
©Mitsuhiro Monden, 2014-2024